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合唱手帳

20・30代の合唱愛溢れるメンバーが「歌う楽しさ」を伝えるために立ち上げた合唱サイト。

歌詞の発音はこう読み解け!『椰子の実』に出てくる5つの「な」を分析してみた。

 

こんにちは、小春ういです。

今回は、「一つの発音は、前後の発音の影響を受ける」ということを『椰子の実』を例にお伝えします。

『椰子の実』の1番の歌詞には「な」が5回出てきます。

 

も知らぬ 遠き島より
流(が)れ寄る 椰子の実一つ

故郷の岸を 離(は)れて
汝(れ)はそも 波(み)に幾月

 


「な」が5回も出てくる! 「な」一つ練習すれば全体の発音が良くなるね!

 

ということではありません。

なぜなら、5回出てくる「な」は全て違う発音だからです。


「な」が5回ある! 全てを適切に歌い分けたら表現に生かせる!

 

そう思っていただけるよう、5つの「な」の違いをご紹介します。

 

発語のポイントは舌!

発音は瞬間的なものではなく、連続的なものです。

 

「な」という発音のポイントは

 

・舌が上の歯の裏に付いた状態

・舌が下に降りた状態

 

の2つですが、紙芝居のようにパッと切り替えることはできません。

「舌が上の歯の裏に近づいていき、その後舌が上の歯の裏から離れ下がっていく」という連続した動作です。

 

しかも、この動作は「な」なら必ずこのルートを通るというわけではないのです。

前後の発音の影響を受け、一番省エネなルートを通ろうとします。


日本に住む私が、ドイツに行ってその後中国に行こうという時に、

「日本→ドイツ→日本→中国→日本」ではなく

「日本→ドイツ→中国→日本」というルートを選ぶように。


それでは、舌の動きに注目して、5つの「な」を一つずつ確認しましょう!

 

「名も知らぬ」では「な」は動きのある音

まずは歌詞の最初「名も知らぬ」の「な」です。

 

この「な」には、前に音はありませんが後ろには「も」が続きます。

 

「も」の発音の時は舌はあまり盛り上がらず全体的に下がっています。

この舌の状態が前の発音「な」に影響して、「な」の時も舌は低めの位置にあります。

舌の先だけが盛り上がるようにして「な」の子音を発音しますが、その後すぐに舌の先は下に降ります。

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「流れよる」では「な」は奥まる音

続いて、「流れ寄る」の「な」です。


この「な」にも、前に音はありません。後ろに「が」があるだけです。

 

「が」の発音の時は舌は舌根が高く盛り上がります。

「な」の子音の時からその準備のために舌根は上がり気味になります。

 

「名も知らぬ」と言う時より「流れ寄る」と言う時の方が、舌根は高い位置にあります。

 

そして「な」の子音が終わって舌の先が下に降り始めると同時に舌根が更に高く盛り上がります。「な」の母音のときには、舌が全体に奥の上を目掛けて斜めに引き上がっていくのです。

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「離れて」では「な」はサラサラ感のある音

次は、「離れて」の「な」です。

 

この「な」には前の音があります。「は」です。

「は」は舌がほとんどどこも盛り上がりません。力みもありません。

ですので、特に舌根は低く下がったままとなります。「な」の子音に向かう時、舌の先のみが上を目指します。

 

また、この「な」には後ろの音もあります。「れ」です。

「れ」は舌先が軽く持ち上がる発音です。

ですので、「な」の子音が終わって舌が下に降りる時も、舌は完全に下に降りきることはありません。次の「れ」を発音するのにどうせ舌は上に上がらねばならないので、高めの位置で出番を待ちます。

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「汝はそも」では「な」は小回り感のある音

続いて、「汝はそも」の「な」。

 

この「な」には前の音はありません。後ろに先ほどの「離れて」と同じ「れ」があるだけです。

なので「離れて」の「な」と似た発音て、「な」の子音が終わっても舌は高めの位置をキープします。

 

ただし、「離れて」の「な」に比べると舌根の位置が高くなります。

「汝はそも」では「は」の影響を受けないからです。

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「波に」では「な」は狭い音

最後に、「波に」の「な」です。

 

またしてもこの「な」には前の音がありません。後ろに「み」があるだけです。

 

「み」は舌の前の方が盛り上がっていて口の空間がとても狭い音です。

この影響を受けて「な」のときも舌がかなり盛り上がっています。

そして「な」の子音が終わって舌が下に降り始めますが、その時も真下を目指すというより、横に広がるようにして下がります。

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まとめ

「な」は「な」であるはずなのに、ひとつとして同じ発語にならないことがお分かりいただけたと思います。

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「語感」という言葉がありますが、これは前後の音の並びに依るところが大きいのです。

こうして一つ一つの言葉の発語を読み解き、その動きを再現して歌うことを心掛けると、歌に語感が生まれます。

ぜひ、試してみてください!

 

 

 

〈ライター:小春うい〉

日本語の歌唱を得意とする声楽家・合唱指導者。国立音楽大学卒業。基礎力を大切にした歌唱・指導が特徴。日本語音声学や朗読などを学び、知識を実践に結びつけることをライフワークとする。中学生から合唱を始め、NHK全国学校音楽コンクール全国大会出場。高校では合唱部を音楽的に推し進め、初出場で全日本合唱コンクール全国大会3位相当の特別賞を獲得した。大学生・社会人になっても合唱やアンサンブルを続け、海外演奏旅行や海外コンクールなどの経験を持つ。