読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

合唱手帳

20・30代の合唱愛溢れるメンバーが「歌う楽しさ」を伝えるために立ち上げた合唱サイト。

「鼻濁音かどうか」ではない。一番使われるのは「第三のガ」。

 

合唱人は日本語の発音に関してときに選択を迫られます。

その一つは「ガ」の発音。

 

楽譜に書いてある「が」を鼻濁音にするのかしないのかという問題です。

 

今回は、小春ういがこの問題に答えます。

 

そもそも「ガ」の読み方の選択肢は3つだよ

多くの歌い手は、ガ行の発音についてこのように考えています。

 

f:id:chorustips:20170301000249p:plain

 

おおよそ、単語の頭は「鼻濁音ではない普通のガ」、語中なら「鼻濁音にしない」。

このように歌い分ける方が多くいらっしゃると思います。

 

しかし、この歌い分けだとしっくりこない……鼻濁音の「ガ」に違和感を感じるということはありませんか?

 

例えば、卒業ソングとして人気のあるレミオロメンの『3月9日』の冒頭の歌詞

「流れる季節の真ん中に〜」

この「ながれる」は語中です。なので、単語の頭は「鼻濁音ではない普通のガ」、語中なら「鼻濁音にしない」というルールに則るなら鼻濁音で歌うべきものです。

しかし、それだとレミオロメンがそうは歌っていないからという次元ではなく「なんか変」と思うと思います。

 

それは、そのはず。

日本語のガ行の発音は2つではなく、3つで語るべきものだからです。

 

ガ行の発音は2×2の表で考える

ガ行の発音は、先程の表に一段追加して2×2の表で考えるとスムーズです。

 

f:id:chorustips:20170301000527p:plain

 

ガの③つ目の選択肢が何かを考える前に、①には普通のガ・②には鼻濁音のガが入るとして、「a」「b」「A」「B」にはそれぞれ何が入るかを考えてみましょう。

 

普通のガと鼻濁音のガの違いって何だっけ

まずは「a」と「b」を考えてみましょう。

つまり、「普通のガ」か「鼻濁音のガ」かを分ける要素は何かということです。

 

それは、字面からも分かりやすいように、ガの準備のためにせき止められた空気が口から出るか鼻から出るかということです。

これを音声学では、「口音(こうおん)」「鼻音(びおん)」と呼び分けます。

つまり、「a=口音」「b=鼻音」となります。

漢字の通りの分かりやすい名称ですね。

 

第三のガは私たちが最もよく使う発音

続いて、「A」と「B」を考えてみる前に、「鏡」と言ってみてください。

喋れといわれるとよそ行きの喋り方になってしまう方も多いと思うので、できるだけ早く「鏡」と10回続けて言ってください。

 

その時の、「鏡」のガは、丁寧に発音した時より短く軽くはありませんか?

 

①普通のガや②鼻濁音のガでは口の奥あたりで空気がせき止められる感じがすると思いますが、「鏡」のガではその感覚がないと思います。

 

ガ行は「破裂音(息をいったんせき止めて、その後それが破られる音)」と思う人も多いと思いますが、実は、破裂しないガもあるのです。

しかも、一般に日常生活で一番多く使われるのはこの音です。

 

①普通のガや②鼻濁音のガが、上顎のあたり(軟口蓋)と舌の根元のあたり(舌根)がくっついて息をせき止めるのに対して、「鏡」のガではくっつきません。ただかなり近づいているためその間を通る摩擦音がします。

 

ということで、「A=破裂音」「B=摩擦音」となります。

 

f:id:chorustips:20170301000553p:plain

 

つまり、第三のガは「口音×摩擦」の音なのです。

 

それぞれの特徴をご紹介

改めてそれぞれ、どんな時に使われるのかとあわせてご紹介します。

 

①普通のガ:口音×破裂

ガが単語の頭にある場合はどんな曲でもこちらのガ。

 

②鼻濁音:鼻音×破裂

古風さや正当さを出したい場合、語中のガに使うと効果的。

 

③「鏡」のガ:口音摩擦

ポップス曲や現代の合唱曲の場合はこちら。スマートな印象に。

 

第三のガを使いこなして「脱・合唱ダサい」を目指してみてね

いかがでしたか。第三のガを使いこなすと、「ポップスを合唱するのってなんか違う」というダサさから少し離れることができます。

使い始めは音程や発声がふらつくかもしれませんが、何事も鍛錬あってこそです。ぜひチャレンジしてみてください!

 

f:id:chorustips:20170301003105p:plain

 

 

  

〈ライター:小春うい〉

日本語の歌唱を得意とする声楽家・合唱指導者。国立音楽大学卒業。基礎力を大切にした歌唱・指導が特徴。日本語音声学や朗読などを学び、知識を実践に結びつけることをライフワークとする。中学生から合唱を始め、NHK全国学校音楽コンクール全国大会出場。高校では合唱部を音楽的に推し進め、初出場で全日本合唱コンクール全国大会3位相当の特別賞を獲得した。大学生・社会人になっても合唱やアンサンブルを続け、海外演奏旅行や海外コンクールなどの経験を持つ。

 

 

チラシやプログラムの文章作成時に押さえるべき表記ルール4選

合唱団の多くはチラシやプログラムを自分たちで作成します。美しい写真や絵に重厚なプログラムノート。一見するとその道の専門家が作ったものかと見紛うほどに美しい印刷物を仕上げる合唱団も珍しくありません。

そんなこだわりのチラシやプログラムだからこそ、「表記ルール」にまでこだわってほしい。

今回は、編集者・前田睦が、すぐに使える表記ルールの基本をお伝えします。

 

一般的な表記が「読まず嫌い」の発生を食い止める!

人は見慣れないものに違和感を抱く性質を持ちます。それは、文章の表記ルールに対しても適用されます。
読みにくさを感じたときに、「これは普段自分が触れている表記ルールと違う」と思う人は、校閲者か編集者かライターか詩人か……文章を意識的に見る習慣を持つ人に限られるでしょう。

一方、そうでない人はふんわりと「なんか読みにくい文章だな」と感じ取ります。内容は良いのに「なんとなく取っ掛かりにくい文章だな」と思われることがあるということなのです。

そんなもったいない状況に陥らないために、これから表記ルールの初歩5点をお伝えします!


1. 読点はなるべく控えめに

まず、よく思うのが「、」を使いすぎる方が多いということ。書き手は親切心のつもりで細かく読点を打っても、読点が多いと文意はつかみにくくなります。日本語は洗練されればされるほどシンプルになる言語です。以下の文例を参考になるべく読点は少なくするよう心掛けましょう。

文例)

この作曲家は、合唱から、映画音楽まで、さまざまなジャンルを手掛ける。

→この作曲家は、合唱から映画音楽までさまざまなジャンルを手掛ける。


詳しく勉強したいなら、こちらの本がオススメです!

 

2. あえて簡単な表記を使おう

チラシやプログラムの原稿はPCで作られることが多いです。PCは便利な変換機能が付いていて、「読めるけど書けはしない漢字」もすぐ表示してくれます。また、「手で書くときには平仮名なんだけどな……」という単語も漢字に変換してくれます。
そのためか、一般に出回っている書籍や新聞などに比べて漢字表記が多くなっていますが、以下の表現はひらがな書きの方が一般的です。

 

「様々」→「さまざま」

「色々」→「いろいろ」

「絡み合う」→「絡みあう」

「◯◯して頂けましたら〜」→「◯◯していただけましたら〜」

「お越し下さいまして」→「お越しくださいまして」

「歌詞の中に出て来る」→「歌詞の中に出てくる」

「お願い致します」→「お願いいたします」

 

誰に見られても隙ない文章にしたいなら、用語辞典の購入をオススメします。


※上記の用語ルールはこちらの用語辞典に添っています

3. 並列の関係には「・」を使おう!

中黒(なかぐろ)、使ったことありますか? 「・」という記号は並列の関係を表します。「、」と使い分けると意味のまとまりが分かりやすくなります。

 

例)

「本日は、作曲家、指揮者の◯◯先生をお招きして〜」

→「本日は、作曲家・指揮者の◯◯先生をお招きして〜」

 

「団員は、東京、千葉、神奈川、栃木の4県から集まっています。」

→「団員は、東京・千葉・神奈川・栃木の4県から集まっています。」

 

意味合い的にも視覚的にも読点はそこで前後のつながりを断つのに対し、中黒は前後を緩やかにつなぎます。読点を使うか中黒を使うかで文章の読みやすさがずいぶん変わります。並列の関係を示すときには中黒を使ってみてください。

 

4. 記号は全角記号を使おう!

全角記号と半角記号、横幅が違うだけと思っていませんか?

実は、記号の全角と半角は別の記号です。

 

例えば()と()。

並べると一目瞭然ですが、高さが違います。

日本語は、文字を並べたときに下のラインが一直線に揃う言語です。そのラインの中にきれいにハマるのが全角の()。一方、下にはみ出てラインを乱してしまうのが半角の()。

 

()は日本語のフォント用の記号で、()はアルファベット用の記号です。

 

一旦意識し始めると、日本語の文章の中に()があるのは目について仕方ありません。()だけでなくスラッシュやコロンも、日本語に囲まれているときは全角を使った方が自然です。


記号について詳しくなりたいならこちらの本がオススメです。

句読点、記号・符号活用辞典。

小学館
売り上げランキング: 123,099

 

おわりに

「表記ルール」は学校で教えられはしませんし、明快な正解があるわけでもありません。しかし、人生を通して多くの文章と接する中で、「こういう書き方が一般的だな」「こういう書き方から外れると違和感を抱くな」とぼんやりとしたものが形成されていきます。なるべく多くの人に快適に読み進めて内容に集中してもらうために、本日お伝えした4つのポイントをぜひ使ってみてください。

 

 

 

〈編集者:前田睦〉
WEBメディアの編集者。年に100冊以上の本を読む本の虫。中学・高校時代に合唱部に所属し、NHKの全国大会に出場した経験も持つ。一般の合唱団では広報としてHPやtwitterの運用や動画編集などを担当する、チラシ・チケット・プログラムの作成を担当するなど「聞き手との接点」をつくる役回りを担当していた。

 

「宗教曲っぽくない」って時に読んでほしい。ラテン語の発音:「Salve Regina」

合唱祭や合唱コンクールの講評で、ときどきこんな言葉を書かれているのを目にします。

 

「宗教曲が宗教曲っぽく聞こえない」

 

世俗曲と比べたときの宗教曲の特徴の一つは「一本ぐっと強固な芯が通っているようなかんじ」といえるでしょう。

それの表現を乱してしまう要因のひとつは発語にあるかもしれません。ということで「ラテン語宗教曲の発音」についてお伝えします。

 

今回は、「Salve Regina」を取り上げます。

 

「ve」が開いてぶっきらぼうに聞こえてしまう

たとえば、「Salve Regina」という歌詞を歌うときに「ve」が開きすぎてしまって、ぶっきらぼうに聞こえてしまうことがあります。

 

歌の練習をするにあたってまず分解して捉えてみることはとても大切です。

「Sa」「l」「ve」「Re」「gi」「na」

ひとつひとつを鳴らすことができるというのは基礎の基礎です。

 

しかし、一つ一つ取り分けて発音した発語と、単語として発音されたときの発語は微妙に違います。

たとえば、「あ」「ん」「しょ」「う」と発音したときの「ん」と、「暗唱」と発音したときの「ん」はかなり違うということが実感できるのではないでしょうか。

 

これと同じことがラテン語でも起こっているのです。

ですので、歌詞の中で発音されたときにどんな発音になるかを意識することが大切です。

すべての単語についてそれを確認することは難しいかもしれませんが、決め台詞となる重要な単語だけでも確認してみると大分雰囲気が変わります。


「Salve Regina」は凄まじい想いが込められた言葉

「Salve Regina」は曲のタイトルになったり、歌詞の一番最初に置かれたりと重要度の高い単語です。

その意味は直訳では「めでたし元后よ」「あわれみ深き母」などと訳されますが、なんだか素っ気ないのでもっと身近になるように具体的に考えてみましょう。

 

人が言葉を発するのには理由があります。ここでのその理由はこんなかんじでしょう。

聖母マリアに呼びかることによって、聖母マリアに気づいてもらい、こちらを向いてもらい、それに続くお話を耳に入れてもらう。

クリスチャンではない私には想像し難いほどの想いが「Salve Regina」には込められているのだと思います。

それはたとえば、とびきり偉い人を前にしたときの恐れ多さと、大好きな芸能人を前にしたときに溢れ出るエネルギーが同時に身の内に広がるほどのものかもしれません。

とにかく「凄まじい言葉である」ということを心に止めてください。

 

「ve」のビリビリをゆるく長く

その上で、「Salve Regina」をそれほどまでのニュアンスで歌うためには、「ve」が開きすぎてしまってぶっきらぼうになるようでは叶いません。


ではどのくらいの発語が適切なのかを考えてみましょう。

 

「Salve Regina」において「ve」は「l」と「Re」の間に位置しています。

それは「閉じた音」になりやすい位置です。

「l」は舌がぐっと持ち上がって息が出る通路を塞ぐ、緊張度の高い音。

「Re」も舌先で上の歯茎の裏を軽く叩くために、顎があまりあかない音。

 

この前後の発音の影響と、「聖母マリアに呼びかける」というニュアンスから、「ve」は勢い良く開くというよりも、擦る動きに近い発語になります。


「v」は上の歯と下唇によって発生するビリビリが特徴的な発音ですが、このビリビリをいつもよりゆるく、しかし長く保ちましょう。そして、「e」の母音に移ってもそのビリビリの雰囲気が残っているくらいが理想的です。つまり、ビリビリを作っているときと同じくらいの顎の開きで「e」を発音します。

このくらい発語に対して注意深くなると、1本芯が通った感じがでてきます。
そうすると、ぐっと宗教曲っぽい発音に寄ってくるのです。

 

 

 

〈ライター:小春うい〉

日本語の歌唱を得意とする声楽家・合唱指導者。国立音楽大学卒業。基礎力を大切にした歌唱・指導が特徴。日本語音声学や朗読などを学び、知識を実践に結びつけることをライフワークとする。中学生から合唱を始め、NHK全国学校音楽コンクール全国大会出場。高校では合唱部を音楽的に推し進め、初出場で全日本合唱コンクール全国大会3位相当の特別賞を獲得した。大学生・社会人になっても合唱やアンサンブルを続け、海外演奏旅行や海外コンクールなどの経験を持つ。

 

1拍の感じ方、間違ってるかもよ。ラテン語発音講座「et」

 

こんにちは、小春ういです。

今日はラテン語「et」の発音についてお伝えします!

 

「et」は英語の「and」に相当する接続詩。

「Gloria」や「Salve Regina」などに登場します。

 

「Gloria」……「et in terra pax ominibus」
「Saive Regina」……「et jesum benedictum frustum venttris tui」
「O vos omnes」……「attendite, et videte」

 

 

そんな「et」は「そして」という接続詞なので、多くの場合次に続く単語の方が重要です。そのため、跳び箱の踏切台みたいに、次の単語へエネルギーを向かわせるように歌えるとスマートです。

 

ですが……「et」で間延びしてしまいスピード感が損なわれてしまう演奏をたびたび耳にします。

今日は「et」が名脇役になってくれる方法をお伝えします。

 

「et」で間延びしてしまう

「Salve Regina」の歌詞を例に、仮に「et jesum」が4分音符・2分音符・4分音符で構成されているとしてお伝えします。「えっと いぇー えー ずむ」というような感じを想像してください。


こういった場合「et」は間延びしやすく、先生から「et間延びしてるよ!」といわれてしまうのです。

そんな場合は、「声がよく響いている時間」で拍を捉えているのかもしれません。

 

1拍の体感時間は変化して当たり前

有声子音・無声子音という言葉を聞いたことはありますか?

 

文字通り、

有声子音は「声帯の振動を伴う子音」つまり音程を付けられる子音

無声子音は「声帯の振動を伴わない子音」つまり音程を付けられない子音です。

 

「et」と「sum」では、「t」が無声子音、「s」と「m」が有声子音です。

「et」と「sum」の声帯が振動している時間を比較すると、「sum」が1拍の間めいっぱい響いているのに対して、「et」は終わりの方で声帯が振動しない時間があるということなのです。

  

「t」は点ではなく線の意識で合わせる

そもそも「t」は時間がかかる発音です。

 

1. 舌が上顎に近づく

2. 舌と上顎が密着して息をせき止める

3. 舌が上顎から離れる

 

このように3つの運動をしています。


「t」のタイミングをあわせるのに点のイメージを持つ方が多いように思いますが、「t」は一瞬では発音できません。数瞬かかります。そして「t」は無声子音なのでその間は音が鳴りません。


「声がよく響いている時間」でいうと、「et」は「sum」よりずいぶん短くなるのが自然な状態なのです。

 

声がよく響いている時間が短くなるのは、その無音の時間が必要だからなのですが、慣れないうちは「間」ができるのは怖いもの。つい無音をなくそうとしてしまいます。

 

「間」の長さは前後のつながりやそのシーンの表現によって変化します。

けれど、「t」は点ではなく線、そして無音の時間は必要な「間」ということを意識してみてください。

 

「間抜け」にはならないでくださいね。

 

 

〈ライター:小春うい〉

日本語の歌唱を得意とする声楽家・合唱指導者。国立音楽大学卒業。基礎力を大切にした歌唱・指導が特徴。日本語音声学や朗読などを学び、知識を実践に結びつけることをライフワークとする。中学生から合唱を始め、NHK全国学校音楽コンクール全国大会出場。高校では合唱部を音楽的に推し進め、初出場で全日本合唱コンクール全国大会3位相当の特別賞を獲得した。大学生・社会人になっても合唱やアンサンブルを続け、海外演奏旅行や海外コンクールなどの経験を持つ。

 

 

感情を表現にするための技術。

心と体は密接に関係しています。イメージや感情は筋肉に反映されます。だからイメージから歌の表現を作ることができます。

 

卒業式の歌が感動するように、感極まった時は、歌は感動的になります。

 

ただ、「その時の感情が溢れちゃった」ではなく、「感情を表現として使う」ためには技術が必要です。再現性が必要です。

 

今日はそんな、感情を歌にすることについてお伝えします。

 

ポイント0:まずは削ぐ

まずはナチュラルな状態を作りましょう。

どんな表現もできるように、意図しない情報が付いてしまっていないか一つひとつ意識を傾けます。

姿勢・口の開け方・表情の使い方・身振り。筋肉に必要最低限でない緊張はありませんか? 筋肉の使い方に偏りはありませんか?

癖を少なくすることは表現の幅を広げることにつながります。まずは、前提条件としてナチュラルな歌い方を心掛けましょう。

 

ポイント1:やってみて言葉を与える

次は、具体的に状況をイメージして、本当にその感情になって歌ってみましょう。

 

「本当にその感情になってみる」ということがポイントで、楽しく歌いたいから笑顔で歌おうと考えてはダメです。頭に浮かべるのは「楽しい状況」です。

 

たとえば、お昼時に気の合う友達との談笑が盛りあがっている時。

たとえば、家族でスキー旅行に行く前日の夜の寝る前。

 

自分が楽しい! と思っているのを確認したら歌ってみましょう。

歌は慣れ親しんだものがいいでしょう。また喋ってみることも効果的です。

 

ポイント2:自分の歌を観察する

歌ってみたら、観察します。

「楽しい!」は、どんな歌、もしくは喋りになってあらわれましたか? それを言葉にしてみましょう。

 

息のスピードはどんなかんじ?

舌の状態は力んでる?

顎はどのくらいの空き具合?

胸は広がった? 閉じ気味になった?

 

などいろいろな質問を自分に投げ掛けましょう。

たくさん答えるほど再現性が高くなります。そして、他のメンバーと共有しやすくなります。

 

 

 

これが感情を表現にする技術の第一歩です。

ぜひ行ってみてください!

「合唱手帳」編集部でした。

 

プロ並みの合唱団が本番中に立ち位置を変更するほど並びにこだわった理由

 

「どんな形で並ぼうか」「パート内の並びはどうしようか」「弧を描く? 真っ直ぐに並ぶ?」と並びを念入りに決める合唱団もあれば、並びを全く気にしない合唱団もあります。

 

なぜ、並びの重要度が合唱団によってこうも違うのか。

今回は小春ういがその理由に迫ります。

 

並びにこだわるプロ並みの合唱団

私が昔所属していた合唱団のひとつに、とても並びにこだわる合唱団がありました。


練習の様子を見たパートリーダーたちがウンウン考えて、本番の1ヶ月前くらいに仮決定。その後、ギリギリまで微調整を続けます。

本番の朝、メンバーの調子を見て並びを調整し、会場リハで会場の響き方を確認して問題があれば再調整。そこでは終わらず、演奏会の幕間で並びや立ち位置が変更されたり、一度はステージの途中でパートリーダーの目配せにより立ち位置を交換したことまでありました。

その合唱団は精密な演奏をすることで名の通った合唱団でしたが、その精密な音作りと並びが深く関係していたのです。


その理由を紐解いてみたいと思います。

 

人の「無意識のモノマネ」を効果的に使っている

人は無意識にモノマネをします。

たとえば、目の前に笑顔の人がいたらこっちも笑顔になるし、目の前の人が泣いていたらこっちも沈んだ表情になります。

 

それと同じようなことが合唱の最中にも起きるのです。

喉を締めたような声が聞こえれば、こっちの喉も少し締まったようになり、喉がよく開いた声が聞こえれば、こっちの喉も少し空いたようになります。

隣の人が外国語の発音を流暢に歌っていれば、こっちも調子よく発音できるし、隣の人の外国語の発音がカタコトだと、こっちも少しカタコトになってしまいます。


ボイストレーニングを受けて、その時は楽に歌えるのに、次の日になると元に戻ってしまうというのは、「昨日できたはずのことを忘れてしまったから」だけではなくて、「昨日は無意識のモノマネがうまく作用しただけだった」ということも要因の一つです。

 

私たちは歌っている最中に目から耳から情報を仕入れモノマネをするので、並びによって音が変わるというのは、あるところ生理現象なのです。

 

一人ひとりの得意ポイントを最大化する

上述の私が所属していた合唱団はこの「無意識のモノマネ」を効果的に活用していました。

 

この合唱団は、アマチュアの一般合唱団であるにも関わらず年に40曲仕上げるような合唱団で、練習時間を贅沢に使うことはできません。1曲1曲を反復練習で仕上げるような音楽づくりをする余裕はありません。

 

全てのメンバーの不得意ポイントを解消しつくすことは正直不可能で、基本的には今ある技術を用いて曲にぶつかることになります。

 

そこで、今あるものを最大活用するために、並びを工夫します。

「誰がこの曲のエキスパートか?」と考えて、その人を中心に置いた並びを作るのです。

 

曲がラテン語宗教曲なら、その曲に求められる技術が高い人を中心に置きます。

それはたとえば、ハリのあってビブラートが適度に少ない声の人、ラテン語の発音が得意な人、和声感覚に優れていて音をハメられる人。

 

曲が日本語の重たい曲なら、声が豊かな人、日本語の発音が得意な人、メロディーをしっとり歌い上げることが得意な人が中心に置かれます。

 

「聴いて合わせる力」の強い団だからこそ

一般の合唱団が一人一人の得意ポイントを主に反復練習で共有するのだとしたら、この合唱団は主に「無意識のモノマネ」を用いて共有していたのだと、今になって思います。


合唱団では「聴いて合わせる力」が大切にされますが、この合唱団はその力がとりわけ強い合唱団でした。だからこそ成り立った効果的な戦略だったといえるでしょう。

 

 

〈ライター:小春うい〉

日本語の歌唱を得意とする声楽家・合唱指導者。国立音楽大学卒業。基礎力を大切にした歌唱・指導が特徴。日本語音声学や朗読などを学び、知識を実践に結びつけることをライフワークとする。中学生から合唱を始め、NHK全国学校音楽コンクール全国大会出場。高校では合唱部を音楽的に推し進め、初出場で全日本合唱コンクール全国大会3位相当の特別賞を獲得した。大学生・社会人になっても合唱やアンサンブルを続け、海外演奏旅行や海外コンクールなどの経験を持つ。

 

歌詞の発音はこう読み解け!『椰子の実』に出てくる5つの「な」を分析してみた。

 

こんにちは、小春ういです。

今回は、「一つの発音は、前後の発音の影響を受ける」ということを『椰子の実』を例にお伝えします。

『椰子の実』の1番の歌詞には「な」が5回出てきます。

 

も知らぬ 遠き島より
流(が)れ寄る 椰子の実一つ

故郷の岸を 離(は)れて
汝(れ)はそも 波(み)に幾月

 


「な」が5回も出てくる! 「な」一つ練習すれば全体の発音が良くなるね!

 

ということではありません。

なぜなら、5回出てくる「な」は全て違う発音だからです。


「な」が5回ある! 全てを適切に歌い分けたら表現に生かせる!

 

そう思っていただけるよう、5つの「な」の違いをご紹介します。

 

発語のポイントは舌!

発音は瞬間的なものではなく、連続的なものです。

 

「な」という発音のポイントは

 

・舌が上の歯の裏に付いた状態

・舌が下に降りた状態

 

の2つですが、紙芝居のようにパッと切り替えることはできません。

「舌が上の歯の裏に近づいていき、その後舌が上の歯の裏から離れ下がっていく」という連続した動作です。

 

しかも、この動作は「な」なら必ずこのルートを通るというわけではないのです。

前後の発音の影響を受け、一番省エネなルートを通ろうとします。


日本に住む私が、ドイツに行ってその後中国に行こうという時に、

「日本→ドイツ→日本→中国→日本」ではなく

「日本→ドイツ→中国→日本」というルートを選ぶように。


それでは、舌の動きに注目して、5つの「な」を一つずつ確認しましょう!

 

「名も知らぬ」では「な」は動きのある音

まずは歌詞の最初「名も知らぬ」の「な」です。

 

この「な」には、前に音はありませんが後ろには「も」が続きます。

 

「も」の発音の時は舌はあまり盛り上がらず全体的に下がっています。

この舌の状態が前の発音「な」に影響して、「な」の時も舌は低めの位置にあります。

舌の先だけが盛り上がるようにして「な」の子音を発音しますが、その後すぐに舌の先は下に降ります。

f:id:chorustips:20170220181823p:plain


「流れよる」では「な」は奥まる音

続いて、「流れ寄る」の「な」です。


この「な」にも、前に音はありません。後ろに「が」があるだけです。

 

「が」の発音の時は舌は舌根が高く盛り上がります。

「な」の子音の時からその準備のために舌根は上がり気味になります。

 

「名も知らぬ」と言う時より「流れ寄る」と言う時の方が、舌根は高い位置にあります。

 

そして「な」の子音が終わって舌の先が下に降り始めると同時に舌根が更に高く盛り上がります。「な」の母音のときには、舌が全体に奥の上を目掛けて斜めに引き上がっていくのです。

f:id:chorustips:20170220181853p:plain


「離れて」では「な」はサラサラ感のある音

次は、「離れて」の「な」です。

 

この「な」には前の音があります。「は」です。

「は」は舌がほとんどどこも盛り上がりません。力みもありません。

ですので、特に舌根は低く下がったままとなります。「な」の子音に向かう時、舌の先のみが上を目指します。

 

また、この「な」には後ろの音もあります。「れ」です。

「れ」は舌先が軽く持ち上がる発音です。

ですので、「な」の子音が終わって舌が下に降りる時も、舌は完全に下に降りきることはありません。次の「れ」を発音するのにどうせ舌は上に上がらねばならないので、高めの位置で出番を待ちます。

f:id:chorustips:20170220182021p:plain


「汝はそも」では「な」は小回り感のある音

続いて、「汝はそも」の「な」。

 

この「な」には前の音はありません。後ろに先ほどの「離れて」と同じ「れ」があるだけです。

なので「離れて」の「な」と似た発音て、「な」の子音が終わっても舌は高めの位置をキープします。

 

ただし、「離れて」の「な」に比べると舌根の位置が高くなります。

「汝はそも」では「は」の影響を受けないからです。

f:id:chorustips:20170220182031p:plain


「波に」では「な」は狭い音

最後に、「波に」の「な」です。

 

またしてもこの「な」には前の音がありません。後ろに「み」があるだけです。

 

「み」は舌の前の方が盛り上がっていて口の空間がとても狭い音です。

この影響を受けて「な」のときも舌がかなり盛り上がっています。

そして「な」の子音が終わって舌が下に降り始めますが、その時も真下を目指すというより、横に広がるようにして下がります。

f:id:chorustips:20170220182041p:plain

 
まとめ

「な」は「な」であるはずなのに、ひとつとして同じ発語にならないことがお分かりいただけたと思います。

f:id:chorustips:20170220182305p:plain

「語感」という言葉がありますが、これは前後の音の並びに依るところが大きいのです。

こうして一つ一つの言葉の発語を読み解き、その動きを再現して歌うことを心掛けると、歌に語感が生まれます。

ぜひ、試してみてください!

 

 

 

〈ライター:小春うい〉

日本語の歌唱を得意とする声楽家・合唱指導者。国立音楽大学卒業。基礎力を大切にした歌唱・指導が特徴。日本語音声学や朗読などを学び、知識を実践に結びつけることをライフワークとする。中学生から合唱を始め、NHK全国学校音楽コンクール全国大会出場。高校では合唱部を音楽的に推し進め、初出場で全日本合唱コンクール全国大会3位相当の特別賞を獲得した。大学生・社会人になっても合唱やアンサンブルを続け、海外演奏旅行や海外コンクールなどの経験を持つ。